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高松高等裁判所 昭和28年(ネ)342号 判決 1958年7月15日

控訴人 被告 株式会社興業舎 代表取締役 柳瀬存 外一名

被控訴人 原告 日東被服株式会社

訴訟代理人 日石基

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人株式会社興業舎法定代理人は原判決を取り消す被控訴人の請求を棄却するとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の陳述は被控訴代理人において、被控訴人主張の昭和二七年三月二六日申請に係る二個の嘱託登記は本件仮登記におくれて同二七年四月二日漸く完了した次第である。と補陳したほか原判決事実摘示の通りであるから引用する。

立証として被控訴代理人は甲第一号証ないし第六号証を提出し原審証人矢野廉平の証言を援用し、乙第四号証の一、二、三第五号証の各成立を認め、その余の乙号各証は不知と答え、控訴人株式会社興業舎法定代理人は乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一、二、三第五号証を提出し、当審証人戸田槌太郎、同矢野庚介の各証言及び当審における控訴本人浜口由(第一、二、三回)の各供述を援用し甲号各証の成立を認めると述べた。

控訴人浜口由は第一審及び第二審において何れも合式の呼出を受けながら本件各口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。

理由

本訴請求は被控訴人が控訴人両名に対して原判決添付目録記載の土地について松山地方法務局今治支局昭和二七年三月二九日受付第一、四七三号昭和二七年三月二三日控訴人ら間の売買予約により控訴人浜口由を買受名義人とする順位第三番の所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続を求めるものである。第一審においては被控訴人の請求が認容せられ、控訴人両名の敗訴に帰したところ、敗訴当事者である控訴人株式会社興業舎(以下単に控訴会社と称する)から勝訴当事者たる被控訴人に対し控訴を提起したのである。本訴はその訴訟の目的が前記控訴人ら間になされた売買予約の仮登記の抹消登記手続を求めるものであるから登記義務者全員につき法律上合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟に該当するものであると解すべきである。したがつて共同訴訟人間の訴訟行為につき互に民事訴訟法第六二条の適用があるから、控訴会社のした控訴申立は他の敗訴者たる控訴人浜口由のためにもその効力を生じ、控訴会社は勿論控訴人浜口由と被控訴人との間の争は当裁判所の審判の対象となるものである。そうして控訴人浜口由は第一審及び第二審においていずれも合式の呼出を受けながら本件各口頭弁論期日に出頭せず、且つ答弁書その他の準備書面をも提出しないから、被控訴人主張事実を明かに争わず、すべてこれを自白したものと看做すべきところ、本訴請求は控訴人両名について合一にのみ確定すべきものであつて、控訴会社の訴訟行為は共同訴訟人間に利益にのみその効力を生ずるものというべきであるから、本件においてはすべて同控訴会社の訴訟行為の効力に従つて判断することとする。

そこで昭和二七年三月二九日控訴会社代表者柳瀬存はその所有の原判決添付目録記載の土地(以下単に本件土地と称する)につき控訴人浜口由を買受名義人として松山地方法務局今治支局同日受附第一、四七三号売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したことは当事者間に争がない。そこで本件仮登記は控訴人両名の間における実体的権利状態に合致し、且つ両当事者の意思に基いてなされたものかどうかについて検討するに、成立に争のない甲第二号証ないし第六号証、当審における控訴本人浜口由(第三回)の供述により成立の認められる乙第三号証の一、二の各記載と当審における控訴人浜口由(第三回)の供述の一部当審証人戸田槌太郎の証言の一部、原審証人矢野廉平、当審証人矢野庚介の各証言を綜合すると、控訴人浜口由は控訴会社代表者柳瀬存と昭和二七年三月二〇日ごろ大阪市北浜のナショナル証券株式会社で訴外材木商戸田槌太郎の紹介で知合つたものであるが、同日控訴人浜口由は右訴外人を介して右柳瀬存より柳瀬ヒロ所有の神戸市須摩区千守町一丁目二七番地の一宅地一千十七坪六合一勺及び同所二七番地上家屋番号七番木造瓦葺弐階建居宅一棟建坪百二十五坪二合弐階三十五坪九合並附属建物五棟を担保として金二百万円の貸与方を申込まれたので、金銭の貸与ではなく買取ることを申出でて同人らと交渉をもつに至つたこと、そこで同控訴人は早速右宅地建物を調査した結果金二百万円は出しかねるので、右柳瀬存らに対して更に他の物件を追加するよう申出たところ、同人から愛媛県新居郡中萩町大字大永山村字土ノ峠四五一番地ノは山林三十一町四反九畝二十九歩をも追加するとの返事であつたこと、しかるに同控訴人はそれでもまだ足りないといつてその後折衝を続けていたところ、同月末になつてから右柳瀬存らから同控訴人に対し本件土地をも追加して右交渉を進めたい旨申入れたのであつたが、同控訴人は気乗がしないのでそのまま放置しておいたので、その当時は何らの合意も成立するに至らなかつたこと、しかるに控訴会社代表取締役柳瀬存は訴外戸田槌太郎の意見をきいた上、同年三月二九日控訴人浜口由の承諾を受けないで、司法書士越智淳に依頼して有合せの三文判を使用して本件土地に関する前示売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記申請に必要な右控訴人浜口由名義の委任状その他の書類を作成せしめ、これらを使用して同日前示登記手続を経由したものなること、もつともその後本件土地につき前記仮登記のなされた後同年四月九日大阪市内の某証券会社で前記控訴人浜口由及び柳瀬存、戸田槌太郎ら会合の上、同控訴人浜口由から柳瀬存らに対し本件土地については、伊藤忠商事株式会社との間に紛争が生じており、又前記神戸市所在の建物には居住者がいることでもあるので金二百万円の貸借をやめる旨申入れたが、訴外戸田槌太郎らの懇請により、同訴外人ら保証の下に同控訴人浜口由は控訴会社(代表者柳瀬存)に対して金二百万円を貸与し、控訴人両名間においてその債務を担保するため、前記神戸市所在の土地建物及び前示山林を売渡担保とし、且つ本件土地につき同控訴人浜口由を買受人とする売買予約を結び、同控訴人浜口由においては前になされた本件土地に関する売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を有効視することを承認したことが認められ、前示証人戸田槌太郎の証言及び当審おける控訴本人浜口由(第一、二、三回)の各供述中右認定に牴触する部分は前示各資料に対比すればたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。してみると右控訴会社代表者柳瀬存がなした仮登記は、当初は控訴人浜口由と控訴会社の両者間の実体上の権利状態に符合しない登記であり、且両当事者の真意に基いてなされたものとは認められない。したがつて右登記は特段の事情のない限り無効原因登記として無効というべきであるが、右登記は事後において控訴人浜口由と控訴会社間の右契約の成立したことによつて当時の実体上の権利状態と符合するに至つたものというべきである。

そこで更に右登記は絶対無効のものかどうかを検討するに、実体的有効要件を欠く無効な登記につき、その後に登記面に対応する実体関係が存在するにいたつたときは、従前の無効登記をそのまま新実体関係を公示する登記として有効視しうるけれども、無効登記の流用可能な状態になつた時に、すでに登記上利害関係を有する者がある場合には右のような流用登記を有効視することは許されない。

本件についてこれをみるに訴外伊藤忠商事株式会社は昭和二七年三月二六日松山地方裁判所今治支部へ控訴会社所有の本件土地に対し同控訴会社に対する金百四十六万七千四百八十円の債権の執行を保全するため不動産仮差押命令の申請をなし、他方同控訴会社との同二五年六月一五日付契約に基いて金百七十万円の債権を担保する抵当権設定の仮登記仮処分命令の申請を為し、両者共そのころ同裁判所より右申請に副う命令が出されたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第五、六号証の各記載と弁論の全趣旨によると右二個の命令は同年三月三一日前記裁判所から嘱託登記の申請がなされ、控訴人らの本件仮処分登記の為された後である同年四月二日その旨の登記が経由せられていることが認められ、これを動かすに足る証拠はない。してみれば控訴会社及び控訴人浜口由は右嘱託登記の登記権利者である訴外伊藤忠商事株式会社若くはその承継人に対し前示無効な仮登記の流用による効力を主張し得ないことは明かである。

そうして訴外伊藤忠商事株式会社が控訴会社に対し、右債権のほか他にも債権(但しその数額に争あり)を有しており、それら全債権を同訴外会社から被控訴人に譲渡する旨の通知が同控訴会社に到達していることは当事者間に争がない。控訴人株式会社興業舎は右譲渡は真実行われたものではなく仮装である旨抗争するけれども、成立に争のない甲第一号証によれば右債権の譲渡は昭和二七年六月五日真実になされたものであることが認められ、これを動かすに足る証拠はない。

してみれば被控訴人が右債権取立の必要上右無効登記の抹消を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、右と同一結論に出た原判決は相当にして本件控訴は理由なく失当として棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第八九条第九五条を適用して主文のように判決する。

(裁判長判事 石丸友二郎 判事 浮田茂男 判事 橘盛行)

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